滝に伝わる昔話

大斗の滝民話
浮 き 膳
浮き膳

昔々、小原の村では祭りやら祝いごとやら、あらたまった集まりがあると、おせりさんから膳・椀・箸など一式を借りてきて使いよったげな。

その日が近づくと、村人は連れだって弁指どん(村の世話役)方に行き、おせりさんから人数分だけ借りてくるように、頼みよったと。
弁指どんは水垢離をとって身を清め、両刀をたばさんでおせりに行き、「何日は祭りあるので何人前膳椀一式貸してくだされ」と願かけて帰ったげな。

次の朝、村人がカゴをかろうて滝に行くと、青々と澄みきった淵に、神紋のついた膳椀がお願いした数だけプカプカ浮いていたそうな。
ある年の祝いの席で、一人の若者が過ってお膳の足を折ってしもうた。
弁指どんにいうとおこられるので、めし粒で張り合わせ、そしらぬ顔でカゴに入れて淵に返したげな。
やがてまた、要り用があって村人に頼まれた弁指どんは、おさりさんに願かけに行ったと。

翌朝、いつものように浮かんでいるものと思った村人が取りにゆくと、不気味に静まり返った淵には、木の葉一枚浮いておらんじゃった。
おどろいた村人は弁指どんに申し上げて詮議(せんぎ)したところ、前々から病でさすらっていた若者が膳をこわしてだまっていたということじゃった。弁指どんがさっそくおせりさんにお詫びに行ったところ、若者の病はすぐに良くなったが、それ以来、お膳が浮いてくることはなかったということじゃ。

大斗の一番下の滝と二番目の滝の中間にある淵を「お膳が淵」または「お倉淵」といって、今でも黒々と口をのぞかせている。
 

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